連日の雨雲が、コンサートの午後だけ静かにしていてくれました。
2018年7月7日(土)、2018年度サロンコンサートの3回目は「闘うピアニスト 」赤松林太郎さんのピアノでした。



今回のプログラムは、バッハとピアソラ
演奏前のご本人のお話にもありましたが、生きた時代も生きた場所も全く違う二人の作曲家です。
しかし二人は時空を超えて「音楽」という見えない糸で結ばれている。彼らはピアノという楽器の為に作曲したのではないのです。
バッハはクラヴィコードの為、ピアソラはバンドの為。


第1部はバッハの「2声のインヴェンション」
演奏の前に赤松さんの解説がありました。
インヴェンションとは、着想するという意味。それぞれの曲に異なる様式を用いて作曲しています。
全て、主になるメロディーに伴奏が従うという形ではなく、それぞれがそれぞれの歌を対等に歌う中で美しいハーモニーを作る対位法を用いて作曲されています。
これは、神の下では皆平等であるという、バッハのキリスト者としての考え方の表れともいえるようです。

とてもわかりやすいお話に続いて15曲、ほとんど一息に演奏されました。

インヴェンションは、正統的にピアノを学ぶ人が必ず演奏する曲です。
私が最初に弾いたバッハは「2声のインヴェンション」でした。対位法という今まで出会ったことのない形式に悪戦苦闘したことを懐かしく思い出します。
そしてそれから長い年月、折にふれ中の何曲かを演奏して楽しんでいます。いくら弾いても新しい歓びを与えてくれる曲です。

その「2声のインヴェンション」を演奏会で聴くのは初めてです。
ハ長調の第1番から変ロ長調の第14番まで、割合短いポーズで次の曲に移っていきます。次に移ると違う表情の音楽が現れます。力強かったり優しかったり、逞しかったり柔らかかったり、疾走したりゆっくり語ったり。14曲目が終わると少し長めのポーズ。そして第15番ロ短調の終曲。熱を帯びた演奏、しっかりと最後の音が鳴りました。

この「2声のインヴェンション」全曲通して聴くと、とても面白い、また弾いてみたくなりました。15曲のそれぞれが生き生きとしており、そして全体として大きな一つの、変化に富んだ作品なのだと実感しました。


休憩を挟んで第2部はピアソラでした。
ピアソラは、メロディーを取るバンドネオン、対旋律を歌うヴァイオリン、リズム楽器としてのピアノ、そしてエレキギターとベース、たまにフルートが加わるという5~6人のバンドの為に曲を作りました。
ピアソラの曲は、ジャズやポップス、クラシック等々、色々なアレンジがされていますが、山本京子さんのアレンジは原曲に忠実、ゴツゴツとむき出しです。
赤松さんはアレンジ譜を手にしてから2年半、演奏の方法を模索したそうです。バンドの楽器の音をピアノで弾くことの難しさ。
演奏を聴きながら、このメロディーは何の楽器で演奏されていたのだろうと想像するのは、とても楽しいことでした。このグリッサンドはバンドネオンそのもの! この重低音はベースの響き、エレキギターはハーモニーを作っているのかしら?等々。
私たちのイメージの中にあるピアソラは、かっこよかったり、おしゃれだったりします。今回聴いたピアソラは全く違って、根源的な魂の叫びそのものでした。
踊る為のタンゴではない、音楽としてのタンゴ。その中でピアソラは自分の内面をえぐり、それを見つめ、苦しみ、アルゼンチン人でなければできない音楽を生み出したんだなあ。作曲すること、演奏すること無しには、ピアソラは生きられなかったのではないかしら。
山本京子さんの編曲と赤松林太郎さんの演奏は、そんなことを私に考えさせました。


熱く深い演奏の後、アンコールは「剣の舞」でした。かっこいい! 手が何本あるのかしらというような演奏でした。
そしておまけにもう1曲。とても楽しい、かわいい曲。モーツァルトの「ブレッドアンドバター」

赤松さん、素敵なコンサートをありがとうございました!
西日本の豪雨が、まだ続いていましたが、無事にお帰りになれましたでしょうか?


by ルーシー

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