2024年1月20日(土)、21日(日)まつプロ公演「父と暮せば」が行われました。

いくつか置かれた灰色の匣と、卓袱台が一つ。
色味のない静謐な舞台に、稲光とともに駆け込んできた娘が叫ぶ「おとったん」から、可愛らしい広島弁と座布団が飛び交い、時間が動き出します。

チラシでネタバレしていたので書いちゃいますが、実はこの「おとったん」は、娘の恋の応援団長として出てきた幽霊。
……正確には、娘の罪悪感が見せる父の幻です。

父は3年前に原爆で亡くなっており、娘は自分だけ生き残ってしまったことへの負い目から、幸せを拒んでいる。

そんな娘の心を表すような「色味のない舞台」に、父が座る縁側、新聞紙に包まれた(というより畳まれた)饅頭、ハンカチに包まれたじゃこ味噌、セリフで聞く夕飯の品々、資料をほどき、台を拭く……娘と父の所作から描かれる「暮らし」が、ほの明るく、温かく、柔らかい色味を付けていきます。

巨匠、井上ひさしの傑作戯曲ですから、セリフの言葉に感動するのは当然なのですが、私はこの「ささやかな暮らしの再現」に、ぐっとくるものがありました。
(特に、娘が雨戸を閉めるように家の輪郭をなぞるのが印象的でした)

セリフに注目するならば、やはりチラシにもあった「わしの分まで生きてちょんだいよ」。
むごい別れがあったことを伝えるために生かされているのは、被爆者だけではないと突きつけられた気がしました。

父と一緒に娘の恋愛成就を願っていた観客が、
娘と一緒に語り継ぐ覚悟を持つまでの物語が
『父と暮せば』ならば、
目撃した観客としては、拙い表現しかできなくても感動を伝えねば!と思った次第です。
この舞台が、作品が、たくさんの人の目に触れ、語り継がれる世界でありますように。
サラダ

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