2022年4月9日(土)、人形劇団クラルテによる「女殺油地獄」が行われました。

「女殺油地獄」? 最初、人形劇に相応しくない内容だな、と思ってしまいました。私にとって人形劇といえば、子ども向けの可愛い物語を考えてしまいます。せいぜい思いめぐらしてもNHKテレビ番組の人形劇「里見八犬伝」しか、思い浮かばなかったのです。
ところが土曜日公演なのに、水曜日から舞台の仕込みが入ると知って、人形劇なのに、どんな舞台が出来上がるのか、楽しみになりました。
当日、楽屋の廊下を行ったり来たりする人形遣いの方たちは、セリフではなく、音の発声練習を続けており、舞台の上でも、歌・ストレッチ・身体の動きを、繰り返し開場直前まで続けていました。
そんな様子を見ていたら想像を上回る期待感が湧いてきました。

上の巻

道行・野崎参り屋形船の場


この当時、難波でも、裕福になった庶民が野崎参りに出かけたのでした。小さい頃から私は、「野崎参りは、屋形船で行こうか。どこを向いても、菜の花盛り…」と口ずさんでは、なんの歌だろう?と疑問でした。人生終わり近くなって、この場面を観て理解することができました。


野崎観音茶見世前の段


主人公の与兵衛登場。ポスターやチラシの与兵衛は美男子ですが、人形はとんでもない悪相で登場、この劇には、ロマンはなさそうな予感がしました。
また、全ての登場人物の人相が、超個性的というか、内面まで表われている気がしました。

中の巻

河内屋の段

与兵衛をめぐる家族関係がわかります。
母 お沢、継父 徳平衛、兄 太兵衛、妹 おかち
ここでも与兵衛の悪行ぶりがひどい。家族は皆善人なのに、その優しさも与兵衛には届かず、母に勘当されます。



この物語の進行の役割で大切なのは、語り部である合唱隊(コロス※)です。合唱隊は劇の状況を説明したり、劇中で語れなかったことを代弁したりする人たちです。
この劇でも、人形遣いと合唱隊が入れ替わりながら、物語を進行していきます。独特のリズムで歌うような語り口は、観客には、心地よいと感じました。
※コロスについてはこちらをクリック


下の巻

豊島屋の段

継父 徳兵衛は、銭300文を持って、与兵衛に母に詫びを入れるようにと、お吉に託けます。
一方、母 お沢も、息子を勘当してしまった後悔から、銭500文と粽(ちまき)をお吉に託けます。親の愛がひしひしと伝わり、涙なしで見られないシーンです。
ところが、与兵衛は陰から父母の様子を見ているのに、800文では借金返済には足りない、かねを貸してくれとお吉に迫り、断られると「油を貸してくれ。」と迫り、油を注いでいるお吉を脇差で殺してしまいます。人形ながら、たいへん残酷な場面で、「女殺油地獄」の題名が深く理解できます。

舞台に生の音楽は、最高。
岡崎泰正さんのギターと三味線、鳴り物(おりん・法螺貝・トライアングル・鉄の鈴・拍子木)のシンプルな演奏で、情景や心の動きを表現していると感じました。



大詰


豊島屋逮夜供養の段

お吉の35日の逮夜に何食わぬ顔で現れた与兵衛ですが、殺しの証拠の割付や血染めの着物でお縄になります。己の悪行と懺悔を叫んだので、少し救われた気がしました。



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終演後には、演出のふじたあさやさん、神嵜宗兵衛商店八代目の尾嵜彰廣さん、49年初演時に与兵衛を演じた西村和子さんによるアフタートークもあり、今日は、最高の舞台芸術を見せてもらったと思いました。

By M.I

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