2022年10月22日(土)サイエンストーク第29弾企画 日本ルーブリゾール株式会社「『潤滑油添加剤の科学』何に役立つ?摩擦と潤滑の大発見」が行われました。

 参加している子どもたちの目がどんどんと大きくなり、周りにいる日本ルーブリゾールの社員の方やNPOたけとよのスタッフにも、そのワクワクしている気持ちが伝わってくる。自分で実験しながらよく観察し、なぜそうなるのかを考え、その結果を確かめる。この不思議な体験と発見が、参加者の気持ちを熱くしていく。こんな姿を生み出したのは、担当してくれるたくさんの大人たちの真剣さだといつも思います。今回、初めてサイエンストークに取り組んでくれた日本ルーブリゾール株式会社の大人たちの熱い思いが、参加者の子どもたちに伝わっていったのです。こんなすばらしい空間を作り上げたサイエンストーク「潤滑油添加剤の科学」について書いてみます。

 その日、一番最初に集合場所に来たのは予定時刻の15分前の女の子でした。送って来たお父さんに手を振って武豊町が手配してくれたバスに一人で乗り込みました。ちょっと心配そうな感じのお父さんがバスの外からもう一度手を振ると、その子もやはりちょっと不安そうな顔をして手を振っていました。おとうさんは、「自分で行きたいと言って参加したのですが、こういう事業に一人で参加するのは初めてです」と話して帰っていきました。女の子が一人でバスの中で待っていると、どんどん参加者が集まって来ていつの間にかバスの中は参加者で満席になりました。なんと、集合予定時刻の前に全員が集まりました。出発予定時刻より早めに出発し、前田の交差点を過ぎ、JR武豊線の踏切を渡り、7号地の交差点に近づくと、参加者の女性から「あまりこちらの方に来ることはない」という声が出て、子どもたちも住宅地とは違う周りの風景を興味深そうに見ていた。いくつかの工場の間を通ってルーブリゾールに着いてバスを降りると、海辺の近くのさわやかな風が気持ちよく感じられました。
 会場に入ると白衣を着たちょっと緊張気味の講師の先生たちと案内役の人たちが笑顔で迎えてくれました。最初に地震が起きたときの注意事項の確認と工場の中に避難場所があることを教えてくれました。危険な物や燃えやすい物があるので許可された物以外は触らないこと、火気厳禁であることを注意されました。その後、会社の名前が潤滑油という意味の英語「ルーブリカント」とからきていること、アメリカのオハイオ州クリーブラントで1928年に創業されたこと、2021年の売上高は「たくさん」だったことが説明されました。100ヶ国以上で研究開発・製造・販売が行われていて、いろんな国でいろんな能力をもった人が働いている国際的な会社であると説明がありました。どれだけ売れていれているのか気になるところですが。
 潤滑油の歴史は古く、エジプトのピラミッドを作るときにも、重たい石を運ぶときに潤滑剤として水が使われていたという話には「へー」のうなずきがいくつもありました。現在の潤滑油と潤滑剤は原油から作られていて、その働きは、重たい物(工事用の重機など)を動かしやすくする、金属に穴を開けるとき(金属加工のドリルなど)に熱が出にくくして精密に加工できるようにする、高速で動く物(自動車のエンジンや車軸など)がなめらかに動いて熱くならないようにする、それに動きやすいだけではなくさびにくくもする働きがあると聞き、またまた「へー、へー」のうなずきがたくさんありました。さらに、同じ潤滑油では寒い地域では固まりやすくなってしまい、暑い地域ではさらさらになってしまい役に立たなくなってしまうことがあるので、そこにどんな潤滑剤をどのくらい入れるか工夫することで、潤滑油の性質を変えてどんな場所でも役立つようにすることが出来ると聞くと、「へー」のうなずきはどんどん深くなっていきました。最後は、海で使う道具がさび(・・)にくくする潤滑油をつくるための潤滑剤も作っていると聞いたら「へー」が「えー」になってしまいました。

ここまで話が進むと、各グループの机の上に置いてある実験用具気になり出します。早くやってみたくてうずうずしています。目標は「さび(・・)にくくする潤滑剤は本当に機能するのかを確かめる(鋳物切子防錆性能評価実験)」です。まず用意された防錆剤を日本製の軟水とフランス製の硬水で薄めます。用意された2.5%の防錆剤の半分を、半分の量と同じ量の水に加え1.25%に薄め、次に1.25%に薄めた溶液の半分と同じ量の水に加え0.625%に薄めます。これで、2.5%の防錆剤と軟水と硬水それぞれで1.25%と0.625%に薄めた水溶液が6個用意できました。次は、1枚ずつシャーレに入った6枚のろ紙の上に鉄の細かい粒(鋳物切子)を出し、スポイドでそれぞれの濃度の水溶液を1・2滴垂(た)らします。その後、それぞれのろ紙の入ったシャーレにふたをして時間がたつのを待ちます。
子どもたちは、溶液を薄めるのに量を間違えてはいけない、それぞれ鉄の粒に同じくらいの量の水溶液をスポイドで垂らさなければいけないと、息を止めてしっかりと目を開いて取り組んでいました。すべてに液がかけられた、シャーレのふたを閉じて空気が入りにくくします。反応を待つ間に、錆は空気中の酸素と水分が金属にふれて発生することや、錆が出てくると金属などが弱くなったりいろいろなの装置(自動車・家電など)が動きにくくなったりして、日常生活で困ることが多くなることを話してくれました。また、錆は表面からある程度の深さで止まることが多いが、塩素系の洗剤や薬剤がかかると、どんどん奥まで錆びてしまい金属が折れてしまうことがあるという話には「えー」の目になりました。
反応を待つ間に研究室で二つの実験と一つの観察体験をしました。「へー、研究室もあるんだー」と思っていた子どもたちでしたが、「写真は許可された人だけにしてください。撮影も許可されたところだけにして下さい。いろいろ秘密がありますから」と説明されたとたんに、「え?え?、え!」と頭の中にたくさんのワクワクが浮かんだようです。
金属をこする実験では、アルミ板を鉄のボルトでこすりました。気持ちがのってきた子どもたちは一生懸命こすり、こすったところが熱くなっていることを実感しました。次に用意された液体をスポイトで金属面に数滴たらして、またこすりました。さっきよりも楽(らく)にこすれたことを確認しきれいにふいてから、もう一種類の液体を垂らして、またこすると「えー、めちゃ楽(らく)じゃん」と思わず声が出ていました。触ってみると「さっきよりいっぱいこすったのに熱くない」と、またまた「えー」でした。初めの液体は「水」で次の液体はなんと「サラダ油」でした。「サラダ油でもこんなに滑るんだ。えー!」になっていました。
次の部屋では「泡を消す添加剤のはたらき」の実験でした。シャボン玉の泡は丸い膜だけど、たくさんの泡が集まると膜は丸くなく直線的になることを拡大写真で見せてもらうと「へー」が出ました。20ccのオイルを実験機の中で泡立てると、なんと倍の40ccまで容積が増えました。見ていた子どもからは「これじゃ入れ物からあふれ出て、まわりが汚れちゃう」いう声がもれました。担当していた研究者の方から「いいこと言ってくれたねー」とうれしそうな声が出ました。小さなつぶやきを聞いてくれていたのです。いよいよほんの少しの添加剤をスポイトで泡でいっぱいの容器の中に入れると、スーと泡が消えていきます。見ていた子どもたちは「えー!すごーい」と目を大きくしていました。この添加剤は少しの量でも、どんどん泡の膜を壊して、潤滑油の働きを守っているのです。
最後は見えにくいものを見る体験でした。電子顕微鏡と高倍率光学顕微鏡での観察でした。電子顕微鏡では六角形の模様がモニターに映し出されていました。なんと4000倍に大きくされているのです。そこで問題、「見えているのは次の何でしょう?『①ハチ、②アリ、③ダンゴムシ、④トウモロコシ』」と聞かれると、子どもたちの答えが分かれました。少しずつ倍率を下げて30倍で全体が見えるようにしていくと、なんとアリの複眼でした。ハチと同じ六角形の目がたくさん集まっていたのです。高倍率光学顕微鏡では240倍に拡大されたアリがモニターに映っていました。観察台を動かしたり倍率を変えたりピントを合わせたりする操作をさせてもらいながらアリの観察をしてから、参加者の名札の印刷部分を観察しました。だんだん倍率を上げていくと、緑の線の部分が青と黄のドット(点)が7対3ぐらいあるところに赤のドットが少しだけ入っているのが見えてきました。やはり「へー」の声が出ました。そのとき一人の子どもから「色の三原色だ。赤・青・黄だ。」という声が出てきました。それを聞いた大人たちは「知ってるんだ!」の「えー!」になりました。

研究室からもどって、いよいよ錆の実験の結果を確かめる(実験結果の評価)時間になりました。それぞれのグループごとに評価用紙に実験結果を記録します。どのグループもどれが一番錆びているのか、つぎはどれかと真剣に相談しながら記録していきました。担当者の方がそれぞれのグループごとに発表させていきます。一番最初にバスに乗って緊張気味だった女子も大きな声で発表し、グループのみんなと楽しそうに話していました。結果は、錆びない順でいくと、①日本の軟水+2.5%が一番錆びなくて、次が②フランスの硬水+2.5%、③軟水+1.25%、④硬水+1.25%、⑤軟水+0.625%、⑥硬水+0.625%の順でした。硬水のほうが軟水に比べて錆びやすく、潤滑剤の濃度が低くなるほど錆びやすいことが分かりました。こんなに結果がはっきり出て参加者も実験を担当した方も、みんな「えー」でした。

参加者のバスが守衛門を出るまでルーブリゾールの方々が手を振って見送ってくれるのに気づいて、「まだ見送ってくれているね」と言っていた子どもたちの笑顔と、見送ってくれたルーブリゾールの方々の笑顔が今日のサイエンストークの満足感を表している気がしました。
今回も担当してくれた企業の皆さんがしっかりと準備をしてくれて、子どもたちのつぶやきや質問に当意即妙で答えていた姿に、その道の専門家の底力を強く感じました。また、話を聞かせてもらいたくなる講座でした。

by MT





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