2024年7月20日(日)ゆめたろうプラザ開館20周年記念 サイエンスレクチャー2024 人工知能研究者 黒川伊保子氏講演会「人工知能は天使か悪魔か 人類とAIの近未来」が開催されました。
明るい顔で生き生きと軽やかな足取りで、年齢・性別に関係なくたくさんの人が帰って行く。黒川伊保子氏の講演会、『人工知能は天使か悪魔か 人類とAIの近未来』終了後の会場の様子だ。なかなかサイエンス系の講演会では見られないものだった。
十代の若者は何かに目覚めたように目を輝かせ、二十代から五十代の働き盛りの大人は「なるほど」と納得した意欲を目に満たしていた。六十代以上のAIにまごつくような世代の参加者の目には、自分をアップデートしようという挑戦へのまなざしが感じられた。
回収したアンケートにも、AIについて自分事として考えられるようなったという声が多く寄せられたいた。
例えば「60代ですが、AIを使ってみたいと思いました」とか、「AIという私たちリタイア組にとって難しい話題を、分かりやすくお話しくださりとても良かったです。人間の発想力の大切さを痛感しました。心理的安全性を考えながら生活していきたいと思います(60代)」、
「自分の生活に、AIは関係してこないかなと、思っていましたが、今後のAIと生活との関わり方と、人との在り方についてお話しいただきとても勉強になりました(60代)」などがあった。
また、10代の参加者からは、
「AIの発展が著しい中、AIのあり方、在りようについて分かりやすく講演されて、教養として学ぶことができて楽しかった」、「聞きやすかった。分かりやすかった。最初、AIは天使か悪魔かと友だちの○○さんと話していたが、とても反応が(内容が思っていたものと)ちがった。また行きたいと思った」など意欲的な声が聞かれた。
そんな講演会は黒川先生のあいさつから始まり、その後、自分の研究の来歴や身の回り様子について笑みをたたえて話し出すと、会場全体に柔らかな空気が流れ、伊保子ワールドが立ち上がっていた。
講師と観客との双方向の安心と集中の伊保子ワールドは最後まで会場を包んでいた。
最初に示されたスライドは(以下『』内はスライドからの引用)、
『2023年8月7日、経済産業省はAI人材育成の指針策定に入ったことを発表した。
AIを使いこなす人材に必要なスキルとして、「対話力」と「問題に気づく力」が挙げられている』であった。
10代の学生もアンケートに、
「2023年8月7日、えらい人がみんなに発表した。AIを使いこなす人材に必要なスキルとして『対話力』と『問題に気づく力』だ」と書いていた。
この学生は、AIなのになぜ「対話力」なのか、なぜ「問題に気づく力」なのか、という疑問を持ちながら、黒川ワールドを理解していったようである。それは多くの観客も同じであった。会場にも、なぜ、AIを活用する人材に「対話力」と「問題に気づく力」なのという??が浮かんでいた。
その後、AIの基本的な仕組みについて、大規模言語モデルを例に簡単に説明し、その特性について紹介した。特性の一つは、生成AIは条件を入れるとその回答をいくつも出してくるし、つまらない質問にはつまらない答えを返すことになるということであった。そこで、人間にはその中から何がいいかを判断する能力が求められる。AIにいい仕事をさせるには、どのような発想でどんな質問をするのかが大切になる。そのためには、日ごろから『対話力』と『問題に気づく力』を意識して生活することが重要になってくるということだった。
では、人間はどうすれば良いのか?
そこで示されたスライドが、『なにがあっても、人間は手を止めてはいけない』だった。
どういうことと、また、疑問の?が出た。
なぜ手を止めてはいけないのか? それは、『勘やインスピレーションを担当するのが小脳だから小脳は、空間認知(イメージ)と身体制御を統合する場所=身体を動かせるから、イメージが湧く』のであり、
『ダンスを踊れない人には、斬新な振付なんて発想できない/イラストを描けない人には、見たこともない画なんて発想できない』から。
だから、AIがたくさんのイラストや合成画像を作ったとしても、
『美大生も専門学校生も絶望しなくていい ただし、すべてのアートのクラスに「ことばと対話」のカリキュラムが必須になるはず』だし、
『経営者には、若い人の経験知を増やしてやる度量が必要』になるはずだと示された。
やはり、学び続け、つくり続け、考え続けることが大切なのだ。
続けての話のテーマは、
『Ⅰ 人類とAIの近未来』であった。
そこで示されたのは、『現代の生成AIはまだ序の口』で、『今のAIは、世の中の知識をぶち込まれた汎用AI』であり、
『AIの真骨頂は、個々の脳の拡張装置になり』、そこでは一人ひとりの
『個性の価値化が可能になること』になるということであった。
どうしてなのか?これからの時代は、
『やがて、自分専用の相棒AIの時代へ』進み、『21世紀に生まれた子供たちはAIがその誕生以来目指していた場所=「脳の拡張装置」になる時代を生きることになる』という。
それは、
『生き様を、AIが見守ってくれる時代』であり、そのような時代とは、
『人間らしく生きること それが人類最後のそして永遠の仕事』となるような、
『AI時代は、「人間らしさ」「その人らしさ」が価値を生む時代』になるということなのだ。
さて次は、
『Ⅱ AIと付き合うコツ』だった。
『AIは、つまらない問いかけには、つまらない答を返す』ので、
『人間の側に対話力《問いを立てる力、発想力》が要る』し、同時に、
『質問が「ふつう」でも、答の中に奇跡が入っていることがある/ただし、人間の側に見極めるセンスが要る』ことになる。
さらに、
『AIは、しれっと嘘をつく』ことがあるので、見破る力が必要になるという。
どうしてそうなるのかいうと、
『「可能性を含めた回答」をするので、必ずしも現実世界の正解とは限らないから 「つじつまが合わない」「なんか引っかかる」=人間の側に疑う力が必要』ということである。
AIの活用に重要なのは、
『生成AIは、発想を押し広げてくれ、実行を手伝ってくれるパートナーなので、人間の側の最初のインスピレーション=問いかけが、AIの発想の原点となり、回答の質を決めてしまう』ので、
『豊かな発想力と、AIの回答をうまく誘導して、答えを絞り込んでいく力=対話力こそが、今後必要とされるビジネスセンス』ということになる。
そのような対話力を高めていくためにポイントになるのが、
『心理的安全性』である。これは、
『グーグルが提唱したワード』で
『4年にも及ぶ社内調査で明らかになったこと/効果の出せるチームと出せないチームの差はたった一つ、心理的安全性psychological safetyが確保されているか否か』であった
という。具体的には、
『心理的安全性とは、「なんでもないこと(ちょっとした気づき)をしゃべれる安心感」』
というものであり、それがないと、
『「言うと嫌な思いをする」と感じて発言を止めると』言われている。
その『大切な人の心理的安全性を守る2つの原則』とは、
『相手の第一声をいきなり否定しない』と『自分の第一声をダメ出しから始めない』である。
「うーん、なんかこれ、自分自身に思い当たることがあるぞ」と、会場内の声なき声が聞こえるようだった。
次に示されたのが、
『Ⅲ 発想力を高める対話術』だった。まず、
『人の話は「いいね」か「わかる」で受ける』こと、具体的には
『「ダメ出しから始める」を「ねぎらいから言う」に変える』ようにするとよいという言葉であった。
この時、「そういえば、ついやってる」という思いが参加者の頭の中に浮かんでいた。
ある10代のアンケートには、
「親の間違いがたくさんあることが分かった。これで毎日人生自信をもっと持てるようになった」とあった。
若さとは「根拠のない自信」で走るときだということを思い出した。ついつい大人たちは止める言葉を口にしているかもしれない。
では、どう自分の対応を改めるといいのだと皆が思っていると、
『「どうして」を「どうしたの?」に替える』
すなわち、
『「どうして、〇〇しないの?」→「〇〇してないのね、どうしたの?」』というように、
『心根を正す→状況を案ずる』と、
まず相手の状況を察する言葉がけが大切と、すかさずサポートしてくれた。なるほどという納得と安心が会場にしみ渡った。
黒川先生まとめて曰く、
『最大のポイントは、「気持ち」と「ことの是非」を分けること』なのですと。
さて、最後のテーマは
『Ⅳ 人工知能は天使か悪魔か』だった。
まず、人工知能を生み出す人間の脳について、
『失敗を未然に防ぐと、脳はセンスが悪くなる』
『勘がよく、センスが良く、発想力・展開力・理解力のある脳は失敗が作る!』
という目から鱗の話があった。
さらに、失敗しても肯定感を高めるためには、
『失敗三カ条
失敗は他人のせいにしない
過去の失敗をくよくよ言わない
未来の失敗をぐずぐず言わない』が大切と励ましの言葉があった。
また、人工知能に言葉を教えるのは人間なので、
『誰がその人工知能に、ことばを教えたのか?』
が重要になる。その人間が何を考え、何を大切にし、どんな世界を求めているのかが重要になる。そのためにも、一人ひとりの人間としての学び、育ちが大切になるのだ。
そこで、黒川先生は警告する。
『警告1 人間の学習機会が奪われる』
すなわち
『失敗を重ね、経験を重ねること(手足を使った技術を習熟すること、人間関係で痛い思いをすること)は、発想力の源』となるのに、失敗をさせない、避けてさせようとする教
育ばかりしていると、人間から革新的な発想を奪うことにつながる。
それをこれからの企業に当てはめると、
『AIに甘えると、企業は人材育成の機会を逸してしまう あえて、AIをしりぞける英断が経営者に求められる』場面も出てくると指摘した。
どんな人材をどのように育成するかという視点が必要になる。
さらに、『警告2 AIは心の領域に踏み込むもの 踏み込みすぎは無粋、と心得よ』と、人間の心への影響についても警告する。
人間がAIに対して依存しすぎるのではなく、
『命は守ってほしい、暮らしは便利にしてもいい。だが、人生は放っておけ』
という、自立した意識と態度を持ち続けることが大切だと指摘した。
いよいよ、最後のスライドが映し出された。そこには、
『人工知能は、天使にもなり、悪魔にもなりうる』とあった。
私たちがAIを天使にするためには、AIのもつ危険性を理解して、
『「何をさせるか」よりむしろ「何をさせないか」』
を考えていくことが大切であると締めくくった。
させて良いことと、させてはならないことを判断するのは我々人間の問題であることを強く感じた。
講演会後のアンケートに以下のようなものがあった。
「AIといえども、使う私たちの発想力・対話力にかかっていると思うと、これからは総合的な人間力が大切なのだという気づきがあり面白かった。(50代)」
「人工知能の講座だったので、技術的な内容が主かと思っていましたが、それを扱う人間の側がどうかという話だったので、とても参加してよかったです。(50代)」
これらのアンケートにあるように、AIを賢く使うためには、私たちがどのような人間になりたいのか、どのような世界を作りたいのを考え続け、より人間らしく成長していくことが大切になる。そのような思いを持つ人と人との関わりが、21世紀に生きる人間(現在の子どもたち)が、天使の人工知能を作り出すことにつながるという黒川先生の未来への熱い希望が伝わってきた講演会であった。
最期まで、人間への愛と信頼を私たちに感じさせてくれた講演会だった。
私の心も足取りも軽くなっていた。
☆今回の講演会は、以下のURLで2024年10月1日(火)まで配信しています☆
アーカイブ配信をお楽しみください。
サイエンスレクチャー2024 黒川伊保子氏講演会 アーカイブ配信のお知らせ | ゆめたろうプラザ (yumetarou-kaikan.net)